東京家庭裁判所 昭和44年(家)405号 審判 1969年3月27日
申立人 山口芳夫(仮名) 外三名
相手方 山口松三(仮名)
主文
被相続人山口由郎および被相続人山口はるの遺産を次のとおり分割する。
一、相手方は、別紙目録記載(一)の居宅および同目録記載(二)の宅地を取得する。
二、相手方は、遺産分割調整金として、申立人らに対し各金四五七、六五三円および右各内金六、八〇〇円に対する昭和二五年六月二五日以降その完済に至るまで年五分の割合による金員ならびに右各内金四五〇、八五三円に対する昭和四二年一月二三日以降その完済に至るまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払い、かつ、以上の支払義務の担保のため、相手方が別紙目録記載(一)(二)の物件につき取得登記を経ると同時に、相手方の費用負担において、右(一)(二)の物件に申立人らに対する抵当権を設定し、その設定登記手続をしなければならない。
理由
以下摘示の事実は、特に証拠関係を掲記したところのほか、本件併合事件記載ならびに当庁昭和四二年(家)第三四四二号推定相続人廃除審判事件記録に徴して認定したところである。
埼玉県○○市大字○○○△△△△番地に本籍を有する山口由郎は、昭和二五年六月二五日死亡し、同人を被相続人とする相続が開始した。よつて同人の妻山口はるが法定相続分三分の一、二男芳夫、三女とし、三男晃、四男松三、五女ミサが法定相続分各一五分の二をもつて、被相続人由郎の遺産を共同相続した。右相続につき相続財分の指定はなされていない。
右相続における相続財産は、別紙目録記載(一)の居宅一棟である。本件相手方は、この居宅は自分が他から買い受けた物であつて自分の所有に属する物であるが、ただ登記簿上由郎の所有名義にしていたにすぎない、と主張するが、その主張に吻合する相手方山口松三の陳述(当庁昭和四二年(家)第三四四二号記録編綴の同人の審問調書による)は、申立人山口芳夫・同柿本ミサの各陳述(同記録編綴の同人らの各審問調書による)に照らして措信し難く、他に相手方の右主張を認めるに足りる証拠はない。
ところで、右はるは、昭和四二年一月二三日死亡したため、同人を被相続人とする相続が開始した。その相続人は、本件申立人らである前記芳夫、とし、晃、ミサと本件相手方である松三の五名であつて、法定相続分は均等の五分の一づつである。この相続についても、相続分の指定はされていない。
はるの遺産は、前記居宅一棟に対する三分の一の相続分に基づく共有持分と別紙目録記載(二)の宅地一筆とである。相手方松三は、右宅地は同人が一部出資して購入した物であるが、これをはるが勝手に同人の単独所有名義に登記したのであつて、右宅地全体を本件遺産分割の対象とすべきではない、と主張するが、この主張を認めるに足りる証拠はない。
なお、前記各相続において、参酌すべき特別受益関係は、各相続人につき認められない。
よつて、本件遺産分割の対象たるべき相続財産は、別紙目録記載(一)(二)の物件であり、本件遺産分割にあたつて基準とすべき相続人らの各相続分は、前示法定相続分であるといわなければならない。
そこで、まず、右(二)の宅地が(一)の居宅の敷地として利用されていること、右(一)(二)の広さが別紙目録記載のとおりであること、および本件相続人らの右遺産占有の経緯ならびに現状、その他諸般の事情を考慮し、右(一)(二)の物件は相手方の取得とするのが相当であると判断する。
次に、右取得によつて生ずる不均衡を調整するために、申立人らに対する遺産分割調整金の支払を相手方に命ずることとするが、この金額は各相続人の前示法定相続分を基準とし、右(一)(二)の物件の価額を参酌し、諸般の事情を考慮して判定することとする。
ところで遺産分割の審判時と相続開始との間で分割の対象たる物件の価額に変動があつて審判時の価額をも考慮に入れなければ分割結果に不均衡を生ずる場合は別として、本件のように右両時点における評価額の差が別紙目録記載の程度である場合には、遺産分割の効力が相続開始の時にさかのぼるものと法定されていることに鑑み、相続開始時における物件の評価額をもつて均衡の調整をはかのが相当であると考える。
よつて被相続人由郎につき相続開始の時点である昭和二五年六月二五日当時の別紙目録記載(一)の居宅の価額五一、〇〇〇円に照らし、各相続人が前示法定相続分によつて取得すべき価額を算定すると、はるが一七〇〇〇円、芳夫・とし・晃・松三、ミサが各六、八〇〇円となる。
また、被相続人はるにつき相続開始の時点である昭和四二年一月二三日当時の別紙目録記載(一)の居宅の三分の一(はるの持分)の価額二三、二六七円および同目録記載(二)の宅地の価額二、二三一、〇〇〇円の合計二、二五四、二六七円に照らし、各相続人の前示法定相続分各五分の一によつて取得すべき価額を算定すると、申立人らおよび相手方は、いずれも四五〇、八五三円となる。
そこで、被相続人由郎と被相続人はるの各相続開始につき、本件当事者らが各相続分によつて取得すべき右価額を合算すると、申立人らおよび相手方は、いずれも四五七、六五三円となる。
従つて、本件遺産たる(一)(二)の物件をすべて単独取得におさめる相手方としては、なにも現物の取得をしない相手方らに対し、不均衡を調整すべき金員として、各四五七、六五三円を支払うべき計算となるところ、前記のごとく、遺産分割の効力は相続開始の時点にさかのぼつて生ずること、および本件各相続開始時以降引続き右(一)(二)の物件は相手方によつて占有利用されてきたこと、その他諸般の事情を考慮すると、右四五七六五三円のうち六、八〇〇円については被相続人由郎につき相続開始の日である昭和二五年六月二五日以降その完済に至るまで年五分の割合(諸般の事情に照らし民法所定の利率と同じ割合によるのが相当であると判断する)による金員を付し、右のうち四五〇、八五三円については被相続人はるにつき相続開始の日である昭和四二年一月二三日以降その完済に至るまで右同様年五分の割合による金員を付して各支払をなすべくく、かつ、以上の支払義務の担保のため、相手方が別紙目録記載(一)(二)の物件につき取得登記を経ると同時に、相手方の費用負担において、右(一)(二)の物件に申立人らに対する抵当権を設定し、その設定登記手続をなすべきものとする。
よつて、主文のとおり審判する。
(家事審判官 安倍正三)